頭部の後遺障害入門
びまん性軸索損傷の慰謝料入門
このページでは、弁護士が「びまん性軸索損傷の基本知識、画像所見、後遺障害の慰謝料相場」について解説しています。
びまん性軸索損傷ってなに?
交通事故で頭部を強打した場合、単なる打撲で済めばいいものの、実際は深刻な怪我に発展することが多い。とくに重篤な症状につながりやすい脳外傷は、大きく分けて3種類に分類することができる。
レントゲン画像にも写る怪我としては、頭蓋骨骨折だ。頭蓋骨の線上骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折などがあるが、いずれも脳にまで影響が及ぶことが多い。
脳実質の硬膜外血腫や脳挫傷、脳内血腫などは、CT画像に損傷状況がはっきりと写ることが多い。これを、「脳の局所性損傷」と呼んでおり、麻痺など様々な全身症状につながるのだ。
一方、CT画像上は脳に明らかな損傷は見受けられないものの、事故直後に数時間の意識障害を伴うとともに、事故後に人格変容や集中力の低下などの精神症状を伴う場合、「びまん性軸索損傷」の怪我を負っている可能性がある。
びまん性軸索損傷とは、事故時における回転性の加速度衝撃により、脳内の「軸索」という線維組織が広範囲で断裂または伸展することをいう。CT画像には損傷の状況が写りにくいので、損傷の有無をめぐって争いになることが多いようだ。
作者 LadyofHats [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で
(まとめ表)
脳外傷の分類 | 概要 |
頭蓋骨骨折 | 線上骨折、陥没骨折、頭蓋底骨折 |
脳の局所性損傷 | 硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳挫傷、脳内血腫 |
びまん性軸索損傷 | 受傷後の意識障害を伴い、CT検査などで脳の局所的損傷がないもの |
びまん性軸索損傷の画像所見は?
急性期の画像所見
(出典:益澤秀明「交通事故で多発する脳外傷による高次脳機能障害とは」12頁)
びまん性軸索損傷は、脳の軸索という線維組織が広範囲に損傷するものなので、硬膜下血腫や脳挫傷などと比べて、事故直後は正常な脳の画像とほとんど変わらないことが多い。
CT画像だけでは画像所見を読み取ることはできないが、高精度のMRI画像では小さな点状出血がみられることがある。点状出血は、時間の経過とともに脳に吸収されてみえなくなることもあれば、より拡大してく場合もある。
びまん性軸索損傷か否かを見分けるためには、事故直後に高精度のMRI検査を行うことが必要不可欠であることがわかる。
慢性期の画像所見
(出典:益澤秀明「交通事故で多発する脳外傷による高次脳機能障害とは」12頁)
脳がびまん性軸索損傷を負った場合、事故後1週間~3カ月の期間に脳全体が萎縮する傾向がみられることが多い。
脳内には、脳脊髄液が作られる「脳室」という脳の空洞がある。左右一対の側脳室と、真ん中に第三脳室、第四脳室が一つずつ、合計4つの脳室がある。
これらの脳室の断面積が拡大する画像所見がみられた場合、脳全体が萎縮していることがわかるため、びまん性軸索損傷を負っている可能性が高いことがわかるのだ。
びまん性軸索損傷の判別のためには、脳室の拡大の画像所見が決定的に重要となるため、事故直後のMRI・CT画像と、事故後3か月目の画像とを比較できるようにこまめに精密検査を行っておくことが大切だ。
なお、びまん性軸索損傷が原因となる脳萎縮は、事故後3か月程度で停止するといわれている。そのため、事故後6カ月を経過してもさらに脳室が拡大し、脳萎縮していくようであれば、びまん性軸索損傷以外の原因が疑われる。
なお、実際にびまん性軸索損傷が生じたか否かは、これらの画像所見と合わせて、事故当時の意識障害の程度と持続時間が重視されている。
(まとめ表)
CT | MRI | |
急性期の画像所見 | 異常なし | 点状出血あり |
慢性期の画像所見 | 脳室拡大 | 脳室拡大 |
びまん性軸索損傷の慰謝料相場は?
事故により、びまん性軸索損傷と認定されたとして、どれくらいの慰謝料が認めてもらえるのだろうか。
まず、びまん性軸索損傷を後遺障害と認めてもらうためには、脳外傷に起因する精神症状が発生していることが必要となる。
後遺障害の等級は、基本的にはこの精神症状の程度に応じて判断されることになる。等級を判定するうえでは、社会生活を送るうえで重要となる4つの能力の喪失の程度を考慮する手法がとられることがある。
指標となる4つの能力は、以下のとおりだ。
①意思疎通能力(他者とのコミュニケーションに支障があるか)
②問題解決能力(理解や判断に困難があるか)
③作業負荷に対する持続力・持久力(一定時間支障なく働けるか)
④社会行動能力(不適切な行動がみられるか)
具体的に、どの能力がどの程度喪失したのかについては、医師の意見書や、家族の日常生活状況報告書を参考にしながら判断されることになる。
実際に自分の症状がどの等級に該当するのかについては、詳細に事情を確認する必要があるので、個別に弁護士に相談した上で確認する必要があるだろう。
(まとめ表)
等級 | 4つの能力の喪失程度 | 慰謝料相場 | |
1つ以上の能力 | 2つ以上の能力 | ||
3級 | 全部喪失 | 大部分喪失 | 1990万円 |
5級 | 大部分喪失 | 半分程度喪失 | 1400万円 |
7級 | 半分程度喪失 | 相当程度喪失 | 1000万円 |
9級 | 相当程度喪失 | - | 690万円 |
12級 | 多少喪失 | - | 290万円 |
14級 | わずかな能力喪失(画像所見なし) | 110万円 |
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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