神経・精神の後遺障害の基礎知識
うつ病の後遺障害慰謝料の基礎知識
このページでは、弁護士が「うつ病の後遺障害慰謝料」について解説しています。
交通事故の後にうつ状態になってしまった方へ。うつ状態になってしまうと、何事に対してもやる気がなくなってしまったり、強い疲労感を感じたり、夜眠れなくなったりして、大変ですよね。周囲からきちんと理解してもらえないことも多いと思います。
このページでは、交通事故でうつ状態になってしまった方に向けて、うつ病の後遺障害等級認定の方法や慰謝料の相場等について紹介します。
交通事故による抑うつ症状・うつ病の基礎知識
交通事故により、うつ状態になることはあるんですか?
はい、あります。交通事故の恐怖感や将来に対しての不安感等から発症することが多いようです。
そうなんですね。交通事故の衝撃って、すごいでしょうしね…。
交通事故による抑うつ症状の発生
交通事故により、身体的な障害だけでなく、精神的な障害が生ずることもあります。交通事故の被害者が、事故の衝撃による恐怖や驚愕、身体的障害についての苦痛、将来への不安、加害者との交渉の負担等により、うつ状態になってしまうことは多いです。
抑うつ症状・うつ病の症例
うつ状態の特徴には、様々なものが挙げられます。一般的なものは、気分が落ち込み、何事にもやる気を失ってしまう、意欲の低下でしょう。他にも、睡眠障害や疲労感・倦怠感、動悸や頭痛等が生じることも多いです。
(まとめ表)
うつ病の代表的な症状 | 具体例 |
抑うつ気分、意欲の低下 | 悲しい気持ちになる、常に憂鬱である、今まで好きだったものに興味が無くなる等 |
睡眠障害 | なかなか眠りにつけない、夜中に何度も目が覚めてしまう、いくら眠っても眠い等 |
疲労感・倦怠感 | 体がだるい、重い |
その他 | 頭痛、動機、息苦しさ、異常な発汗、性欲の減退等 |
抑うつ症状・うつ病の治療
うつ病の治療には、大きく分けて3つの方法があると言っていいでしょう。
1つ目は、十分な休養をとることです。十分な休養を取らなければ、その肉体的・精神的負担により、症状が改善する可能性は低いです。
一番は自宅で十分な休養がとれることですが、自宅では、いろいろ気になって十分に休むことができない場合には、入院をして医療機関で急用を取るのも手です。
2つ目は、抗うつ薬による治療です。抗うつ薬は、うつ状態の原因である、神経の情報伝達物質のバランスの乱れを調整する作用をもっているため、うつ状態からの回復が望めます。
3つ目は、カウンセリングによる治療です。カウンセリングでは、うつ状態の方にありがちな、マイナス思考のパターン等を修正し、柔軟な思考ができるように治療を行います。これにより、うつ状態を再発することが少なくなるという効果があります。
うつ病の後遺障害が認定される基準は?
うつ病で後遺障害が認められるためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
うつ病により、労務に障害があることを証明する必要があります。
あくまでも、仕事に差し障るか、という点の判断なんですね。
後遺障害を申請するタイミング(妥当な療養期間)
うつ病のような精神的障害については、症状が重い場合でも、適切な治療を行えば、その後の回復が十分に見込まれるという特徴があります。
そして、後遺障害とは、治療にもかかわらずその後の回復が見込めず、症状が残ってしまった場合をいうため、うつ病が後遺障害として認定されるためには、そのような回復が見込めない状態に至るまで待つ必要があります。
具体的には、事故後2~3年経過しても症状が改善しない場合には、回復が見込めない(症状が固定した)として、後遺障害として認定されるものとされています。
うつ病の後遺障害等級認定基準
うつ病により認定される後遺障害等級としては、9級、12級、14級があります。そして、認定される等級は、うつ病による労務への支障の程度により区別されます。
(まとめ表)
等級 | 認定基準 |
9級 | 通常の労務に服することはできるが,うつ病により,就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの |
12級 | 通常の労務に服することはできるが,うつ病により,多少の障害を残すもの |
14級 | 通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,軽微な障害を残すもの |
交通事故とうつ病との因果関係の判断方法は?
交通事故によるうつ病は、その因果関係の立証が難しいといいますが、なぜでしょうか。
うつ病の症状は、客観的にわかるようなものではないからです。また、うつ病が精神医学的に解明されていない部分が多いことも、因果関係の立証を困難にしている原因でしょう。
そうなんですね。ただ、うつ病の苦しみからしたら、なんとか因果関係を認めてあげたいですけどね。
交通事故によるうつ病が因果関係で争われる理由
交通事故によるうつ病は、客観的な障害が認められないため、それが直ちに交通事故によりもたらされたかを判断することは難しいといえます。
特にうつ病は、交通事故そのものが原因ではなく、以前にかかったことのある精神疾患が影響していたり、事故後のストレスが原因となったりすることもあるため、交通事故によるものと判断するためには、個別具体的な事情を綿密に検討する必要があります。
因果関係が争われた判例(否定例)
東京地裁平成21年2月5日判決は、うつ病の症状として問題となった幻覚や妄想は、事故の日から約2年後に生じており、因果関係を認めることができないとしました。
横浜地裁平成20年6月19日判決では、交通事故被害者がうつ病状態になったのは、専ら職場の障害者に対する配慮不足が原因であるとして、因果関係を否定しています。
因果関係が争われた判例(肯定例)
横浜地裁平成20年2月15日判決は、事故後1カ月で発症した幻覚妄想性精神病状態について、事故との因果関係を認める判決を出しています。
札幌地裁平成23年5月30日判決は、以前にうつ病にり患したことがある被害者であるが、事故前はパート労働を通常こなすことができており、事故後にそれが行えなくなったことからすれば、従前のうつ状態が事故により悪化したものとして、事故とうつ病との因果関係を認めています。
判例からわかる!うつ病の後遺障害慰謝料の相場は?
交通事故によりうつ状態が後遺障害として残ってしまった場合、慰謝料の相場はどれくらいなのでしょうか。
具体的な事情にもよりますが、後遺障害がうつ病のみの場合、100万円から200万円程度であることが多いようです。
そうなんですね。思ったより少なく感じてしまいます。
(まとめ表)
判例年月日 | 後遺障害の内容 | 後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料 |
千葉地判 平成20.9.29 |
うつ病 | 9級 | 80万円(400万円から減額) |
横浜地判 平成24.2.27 |
うつ病 | 12級 | 180万円 |
京都地判 平成25.3.14 |
うつ病 | 14級 | 110万円 |
大阪地判 平成25.6.28 |
うつ病等 | 併合8級 | 819万円 |
東京地判 平成25.10.28 |
うつ病 | 14級 | 110万円 |
この表から分かる通り、後遺障害がうつ病のみである場合、慰謝料は100万円から200万円程度であることが多いです。一方、他にも後遺障害が認められる場合には、それらと併合して後遺障害等級が認定されることにより、より高額な慰謝料が認められることもあります。
うつ病は、その程度によっては今までの生活ができなくなる、重大な後遺障害です。交通事故によりうつ病になってしまった場合、せめて多くの慰謝料を受け取りたいと考えることは自然なことです。
交通事故に詳しい弁護士であれば、あなたに代わって裁判等で主張することにより、より多くの慰謝料を獲得する手伝いをすることができます。是非一度ご相談ください。
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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