上肢・下肢の後遺障害の手引き

ひざ・下腿の後遺障害慰謝料の手引き

このページでは、弁護士が「交通事故によるひざ・下腿の後遺障害慰謝料」について解説しています。

ひざやスネ(下腿部)は、人が歩行するうえで全身を支える重要な役割を果たしています。

交通事故による怪我が原因でひざや下腿部に障害が残ると、その後の仕事や日常生活に大きな支障が出るのは当然のことですよね。

今回は、ひざやスネの部分に怪我を負った方や重い後遺症が残ってしまった方向けに、後遺障害認定慰謝料の補償などについて解説していきたいと思います。

交通事故によるひざ・下腿の外傷の基礎知識

交通事故の怪我でよく「下腿」と聞くのですが、これは足全般のことを指しているんでしょうか?

いえ、ひざ関節から足首の関節までの間の脛部分を一般的に「下腿」と呼びます。ちなみに、股関節からひざ関節までの太ももの部分は「大腿」と呼ばれていますね。

そうなんですね。では、交通事故で負ってしまうひざや下腿の外傷ってどんなものがあるのでしょうか?

ひざ・下腿の外傷とは

交通事故で負うことの多いひざ・下腿の外傷は、ひざ関節の捻挫・半月版の損傷、ひざ関節の脱臼、脛骨と腓骨の骨折などがあります。

ひざ関節については靭帯が多く集中しているため、軽い事故で軽傷のように見えても、今後の歩行に影響を及ぼしてしまう可能性があります。

ひざ関節の捻挫・半月板損傷

半月板

Henry Vandyke Carter [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

ひざ関節の捻挫や半月板損傷は、その部分への直接的な衝撃により発生することもありますが、基本的には、体重がかかった状態でひざ関節を捻ったときに負傷します。

まず、半月板は太ももにある大腿骨と脛にある脛骨の間にある軟骨組織で内側と外側のそれぞれにあります。半月板は、足から受ける負担を分散して、外からの衝撃やショックなどを吸収する作用と、それに加えてひざ関節の安定性や円滑な運動をもたらす役割を担っております。

例えば、交通事故により自転車から転倒し路面に着地する際、ひざを曲げた状態で強くねじったときは半月板やひざ関節にある靭帯を損傷してしまうことがあります。

ひざ関節の脱臼

ひざ関節は、大腿骨と脛骨と半月板、そして多くの靭帯によって構成されています。

交通事故によって、骨と骨をくっつけて支えていた靭帯が断裂し、骨や半月板の位置関係が正常時と比べまったく別物になることをひざ関節の脱臼といいます。

ひざ関節の脱臼には、その骨のズレた方向によって、前方・後方・内方・外方及び回旋脱臼と分けられています。

さらに重要な問題として、脱臼の際に靭帯だけでなく、その近くにある血管や神経も損傷することがあるため、その際にはすぐにでも緊急手術を行う必要があります。

血管や神経までも損傷した場合には、迅速に適切な治療が行われないと、最悪のケースでは下腿以下が壊死して切断しなければいけないこともあります。

たとえば、交通事故により、ひざを90度近く曲げた状態で前方から強い衝撃をひざ関節の脛骨部分に受けたときは、後ろ十字靭帯・後方関節包及び内外側副靭帯が断裂し骨がズレ、ひざ関節後方脱臼となります。

脛骨と腓骨の骨折

脛骨

脛骨

Henry Vandyke Carter [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

腓骨

腓骨

Henry Vandyke Carter [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

下腿は、主に内側にある太い脛骨と外側にある細い腓骨によって構成されています。

下腿での骨折はひざから足首に至るまでのさまざまな場所で起こりますが、その骨や周りの皮膚、筋肉、血管の構造上治療するのが困難な場合があります・

また、脛骨は前部分から内側にかけて筋肉がなく、皮膚の下に直接骨を触れることができるため、骨折するとその骨折した部分が鋭利な刃物のような状態になり、皮膚を突き破って外部に出てきてしまうことがあります。

皮膚を突き破って骨折してしまった場合には感染の危険性があり、ひとたび折れた骨が感染し骨隨炎を発症してしまうと非常に治療が困難となります。

また、骨折が治るためには骨折部分の周囲に豊富な血流が必要なのですが、脛骨の下半分については、筋肉が腱に移行する部分であるため骨周囲の血流に乏しく、ほかの部分と比べても治療しにくい部分となっています。

(まとめ表)

ひざ関節の捻挫・半月板損傷 ひざ関節の脱臼 脛骨と腓骨の骨折
原因 体重が乗ってひざを曲げた状態で強くねじったとき ひざ関節の靭帯が断裂し骨や半月板の位置関係がズレたとき 強い衝撃が骨に直接又は間接的に作用したとき
症状 重度の場合、数時間以内に筋けいれん、腫れ、こわばりが起こります。 受傷直後に激烈な疼痛があり、ひざは明らかに変形している。 脛骨骨折の場合、骨折部の端が皮膚を突き破っていることがある。

ひざ・下腿の後遺障害にはどんなものがあるの?

ひざ・下腿について、後遺障害はどのようなものがあるのでしょうか?

ひざ・下腿の後遺障害は主として、「欠損障害」「機能障害」「変形障害」の3つに区分されています。

なるほど、ひざ・下腿の障害といっても様々な症状や状態があるから、それごとに分けているんですね。

ひざ・下腿の後遺障害についての悩み

交通事故によりひざ・下腿になにか障害が残った場合は、日常生活や趣味、仕事に大変影響を及ぼします

最悪の場合今まで楽しめていた趣味ができなくなったり、勤めていた仕事を辞めなければいけなくなる可能性があります。

このような場合に、何か相手方から賠償してもらえるのか?

また、賠償してもらえるとしても、自分の障害はどの程度のもので、その障害の賠償金の相場はどれくらいなのか?気になるかと思います。

下記には、その賠償金を計算するのに重要となるひざ・下腿の後遺障害の等級とその等級について認定を受けるための認定基準を症状や障害の内容ごとに詳しく記載しています。

もし、自分や家族の方、親戚の方が交通事故に遭ってしまい、ひざ・下腿にある違和感と下記にある認定基準が当てはまると思った場合には、すぐにでもご相談ください。

ひざ・下腿の欠損障害

ひざ・下腿の全部又は一部を失った場合には、ひざ・下腿の後遺障害の1つである欠損障害として認定を受けられる可能性が高いといえます。

欠損障害の認定基準と後遺障害等級については以下の通りとなっています。

両下肢をひざ関節以上で失ったもの(1級5号)
・両下肢を足関節以上からひざ関節の間までで失ったもの。(2級4号)
・1つの下肢をひざ関節以上で失ったもの(4級5号)
・1下肢を足関節以上からひざ関節の間までで失ったもの(5級5号)

ここにおける足関節とは、足の甲と下腿をつなぐ足首部分のことです。

欠損障害については、その欠損部の画像所見により認定の判断をするため、どの認定基準にあてはまるかは画像から明白であり、裁判で等級自体が争われるケースは殆どありません。

欠損障害では、等級認定ではなく労働能力喪失率が主な問題となっています。

等級が高いものであっても、被害者が事故後に何らかの収入を得ているときには、労働能力喪失率が一部しか認められないケースもあります。肉体労働者であった被害者であれば、通常認められる労働能力の喪失よりも影響が大きいと判断され、より大きな労働能力喪失率が認められるケースもあります。

ひざ・下腿の機能障害

ひざ・下腿について、ひざ関節の機能が失われたり、その可動域に制限が生じている又は人工関節等に挿入置換をした場合には、後遺障害の1つである機能障害に認められる可能性が高い。

機能障害の認定基準と後遺障害等級は以下の通りとなっています。

・ひざ関節の用を廃したもの(8級7号)
・ひざ関節の機能に著しい障害を残すもの(10級11号)
・ひざ関節の機能に障害を残すもの(12級7号)

なお、ひざ関節以外にも股関節や足関節も併せて上記の認定基準に当てはまる場合には、書かれている等級よりも高い等級の認定を受けることができます。

「用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。

・関節が硬直したもの
・関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態のもの
・人工関節等を挿入置換した関節の可動域が障害を負っていない健康な関節の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
「機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
・関節の可動域が障害を負っていない健康な関節の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
・人工関節等を挿入置換した関節

「機能に障害を残すもの」とは、関節の可動域が障害を負っていない健康な関節の可動域角度の3/4以下に制限されているものをいいます。

損害賠償請求をした裁判では、機能障害の認定ポイントとなる可動域について争われることが多いです。

可動域は、原則として、主要運動(屈曲・伸展、外転・内転)を他人の手や器械の補助をしてもらってする際の可動域角度(他動角度)を用いて、障害を負った関節と健康な関節、または、健康な関節がない場合には参考として定められた関節可動域を比較し、1/2以下或いは3/4以下になっているか判定します。

また、機能障害としての認定を受けなかった関節が動揺関節に当てはまる場合には、機能障害に準ずる後遺障害等級の認定を受けることができます。

動揺関節とは、関節の安定性が損なわれ、正常では存在しない異常な関節運動が生じている関節のことを言います。

動揺関節の認定基準と後遺障害等級は以下の通りとなっています。

・常に硬性補装具を必要とするもの(8級)
・時々硬性補装具を必要とするもの(10級)
・重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの(12級)
・習慣性脱臼・爆弾ひざ(12級)

ひざ・下腿の変形障害

交通事故により、ひざ関節に偽関節を残すもの又は長管骨に癒合不全を残すものには、ひざ・下腿の後遺障害の1つである変形障害の認定を受けられる可能性が高いです。

癒合とは、傷や骨折が治りその損傷部分がふさがったりくっつくことを言います。

変形障害の認定基準と後遺障害等級は以下の通りとなっています。

・1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの(7級10号)
・1下肢に偽関節を残すもの(8級9号)
・長管骨に変形を残すもの(12級8号)

「偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものをいいます。

・脛骨及び腓骨の両方に骨幹部等に癒合不全を残すもの
・脛骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの

なお、「偽関節を残すもの」とは、上記のいずれかのうち常に硬性補装具を必要としないもののことを言います。

「長管骨に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものを言います。

・脛骨について15度以上屈曲して不整癒合したもの
・腓骨について15度以上屈曲して不整癒合したもののうちその程度が著しいもの
・脛骨の骨端部又は腓骨の骨幹部に癒合不全を残すもの
・脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
・脛骨の直径が2/3以下に減少したもの

変形障害においては、上記のように認定基準が具体的に定められているため、裁判では、欠損障害のように等級認定よりも、この変形障害によって労働能力にどのような影響が生じているかが争われることが多いです。

(まとめ表)

欠損障害 機能障害 変形障害
認定基準 ひざ・下腿の全部又は一部を失ったもの ひざ関節の機能が喪失、可動域制限が生じている又は人工関節等を挿入置換したもの ひざ関節に偽関節を残すもの又は長管骨に癒合不全を残すもの
等級 1級,2級,4級,5級 8級,10級,12級 7級,8級,12級

判例からわかる!ひざ・下腿の後遺障害の慰謝料相場

ひざ・下腿の後遺障害を負ってしまった場合には、どれぐらいの慰謝料をもらえるのですか?

後遺障害の等級や被害者の年齢などで変わってきますが、12級の軽微な後遺障害であれば約250~290万円、下腿の切断による1級,2級の重度な後遺障害であれば2500万円以上も慰謝料をもらえるケースが多いですね。

ということは、同じ機能障害や変形障害であっても等級次第でその慰謝料が大きく変わってくるんですね。

判例年月日 後遺障害の内容 後遺障害の等級 後遺障害慰謝料
東京地判
平成11.1.13
右下腿部変形障害 併合12級 270万円
京都地判
平成14.2.21
左ひざ関節機能障害(動揺関節) 12級 250万円
福岡地判
平成17.8.9
左下腿部欠損障害等 併合4級 2000万円
大阪地判
平成20.9.8
右ひざ関節機能障害等 併合5級 1400万円
さいたま地判
平成 25.4.16
左下腿部欠損障害等 併合4級 1670万円

上記のように、同じ後遺障害の等級であっても、その症状や労働への影響、年齢、被害者の元の健康状態、他の後遺障害などの様々な要因によって慰謝料の金額は変わってきます

ひざ・下腿の欠損障害は、後遺障害等級が比較的高いので、認められた欠損障害によっては後遺障害慰謝料が2800万円相当を請求することができ、また、認められるケースが多々あります。

機能障害や変形障害の認定を受けた場合には、低い等級であっても12級はありますので、後遺障害慰謝料250万円以上を認められる可能性が非常に高いです。

このような適切な後遺障害慰謝料を認められるためには、交通事故に詳しい弁護士による必要十分な主張が重要となってきます。

ひざ・下腿の後遺障害について何かお悩みでしたら、是非一度ご相談ください。


後遺障害の慰謝料.comの監修医師

藤井 宏真 医師

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