神経・精神の後遺障害の基礎知識
脊髄損傷の後遺障害慰謝料の基礎知識
このページでは、弁護士が「脊髄損傷の後遺障害慰謝料」について解説しています。
交通事故で脊髄を損傷してしまうと、全身又は体の一部が麻痺してしまうなど、体の機能に重大な支障が出てしまうため、本当にお辛い思いをされていると思います。
このページでは、交通事故で脊髄を損傷してしまった方に向けて、脊髄損傷のメカニズムや後遺障害慰謝料の相場等についてご紹介します。
交通事故による脊髄損傷の基礎知識
脊髄って体のどこのこと?
Henry Vandyke Carter [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で
脊髄とは、人間の背骨の部分(医学的には「脊柱」といいます)を通っている神経組織で、脳の指令を体の各組織に伝達する経路としての役割をもっています。例えば、手を動かそうとした場合、脳からの指令が脊髄の神経細胞に伝わり、そこから手の神経組織に伝わり、手の筋肉を動かすことができるようになるのです。
このように、脊髄は脳からの指令を全身に伝達する役割を果たしているため、脊髄が損傷してしまった場合、この神経の伝達がうまくいかなくなり、手足を動かせなくなったり、手足の感覚が失われたりするのです。
脊髄損傷の原因
脊髄損傷は、主に脊椎の骨折や脱臼を原因として起こります。脊椎とは、脊柱を構成する26個の骨であり、脊髄を衝撃から保護する役割があります。この脊椎が骨折・脱臼することにより、内部で保護されていた脊髄までもが損傷する、というのが一般的です。
脊椎の骨折・脱臼の原因としては、交通事故が最も一般的です。交通事故の衝撃により、脊椎の骨折や脱臼が生じます。なお、脊椎の脱臼が生じた場合には、脊髄の損傷は必発であるとされています。
脊髄損傷により発生する症状
脊髄が損傷した場合、神経伝達機能の障害に伴い様々な症状が生じます。
一般的なのは、身体の麻痺です。麻痺には、損傷部以下の運動・知覚機能の一切が失われる完全麻痺と、その他の不全麻痺があり、不全麻痺の程度や部位は、脊髄の損傷の程度により大きく異なります。
その他には、心臓の働きが悪くなることによる血液の循環障害、呼吸筋が麻痺することによる呼吸障害、膀胱利尿筋という尿の排出を行う筋肉の麻痺による膀胱直腸障害等があります。
(脊髄損傷により生じる症状)
症状の種類 | 具体的症状 |
麻痺 | 手足が動かない、感覚がない等 |
循環障害 | 心拍数の低下、血圧の低下、除脈等 |
呼吸障害 | 呼吸不全 |
膀胱直腸障害 | 失禁、排尿遅延等 |
脊髄損傷の後遺障害にはどんな種類があるの?
脊髄損傷による後遺障害
脊髄は、手足の神経等の末梢神経と異なり、一度損傷した場合には自然に再生することはありません。また、人工的に再生させる方法も発見されていないのが現状です。そのため、基本的には損傷時の症状がそのまま後遺障害となるといえます。
もっとも、後遺障害等級認定においては、麻痺の範囲と程度により後遺障害等級を認定することになります。
脊髄損傷の後遺障害等級認定における麻痺の程度について
脊髄の損傷で後遺障害等級の認定がされる場合、その判断は「麻痺の範囲」と「麻痺の程度」によりなされますが、その中でも「麻痺の程度」に関しては、厚生労働省の通達により、後遺障害等級基準よりもさらに具体的な基準が定められています。
この通達によれば、麻痺の程度は「高度」「中等度」「軽度」に分かれます。以下の表は、通達の内容を簡単にまとめたものになります。
(「麻痺の程度」の具体的基準)
程度 | 内容 | 具体例 |
高度 | 障害のある部位の運動性・支持性がほとんど失われ、その部位の基本動作ができない場合 | ・完全硬直した場合 |
中等度 | 障害のある部位の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある場合 | ・約500gの物を持ち上げられない ・字が書けない ・足の片方に障害が残ったため、杖や歩行具なしでは歩行が困難又は階段を上れない |
軽度 | 障害のある部位の運動性・持続性が多少失われ、基本動作に制限がある場合 | ・文字を書くことが困難 ・両足に障害が残ったため、歩行速度が遅く、不安定又は杖や歩行具なしでは階段を上れない |
後遺障害等級認定基準について
上記の麻痺の程度の基準を前提にして、以下では後遺障害等級認定基準を簡単にまとめます。なお、表中の「対麻痺」とは、両足が麻痺している状態をいい、「単麻痺」とは手足のどれか1つに麻痺がある状態をいいます。
(脊髄損傷の後遺障害等級認定基準)
等級 | 該当症状(具体例) |
1級1号 | ・高度の四肢麻痺 ・高度の対麻痺 ・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの ・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの |
2級1号 | ・中等度の四肢麻痺 ・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの ・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの |
3級3号 | ・軽度の四肢麻痺 ・中等度の対麻痺 |
5級2号 | ・軽度の対麻痺 ・片方の足に高度の単麻痺 |
7級4号 | 片方の足に中等度の単麻痺 |
9級10号 | 片方の足に軽度の単麻痺 |
12級13号 | その他の軽微な麻痺等 |
このように、後遺障害等級認定においては、麻痺の程度として、介護の要否等も参酌して判断されます。また、高い等級が認められる脊髄損傷の後遺障害は、専ら足の麻痺にかかる後遺障害であることが分かります。
この表に記載されている症状以外でも、例えば両腕の完全麻痺のように重篤な後遺障害が生じている場合には、12級よりも高い等級認定がされることがあります。
脊髄損傷による判例上の慰謝料相場は?
(まとめ表)
判例年月日 | 後遺障害の内容 | 後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
東京地判 平成17.10.27 |
完全対麻痺等 | 1級 | 2900万円 |
大阪地判 平成18.4.26 |
四肢不全麻痺等 | 5級 | 1400万円 |
名古屋地判 平成18.8.29 |
四肢麻痺(知覚麻痺)等 | 1級 | 2800万円 |
東京地判 平成20.5.8 |
完全対麻痺等 | 1級 | 2800万円 |
大阪地判 平成20.7.31 |
両下肢不全麻痺等 | 3級 | 1900万円 |
このように、脊髄損傷が認められた場合には、1000万円から3000万円程度の慰謝料の獲得が望めます。脊髄損傷の後遺症は極めて重大なため、せめて慰謝料は多く支払ってもらいたいと考えるのが通常でしょう。
適正な慰謝料の支払いを受けるためには、交通事故に詳しい弁護士に依頼をすることが重要となります。是非一度、弁護士に相談することをお勧めします。
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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