神経・精神の後遺障害の基礎知識
PTSDの後遺障害慰謝料の基礎知識
このページでは、弁護士が「交通事故によるPTSDの後遺障害の基本知識や慰謝料相場」について解説しています。
・交通事故で大型トラックに接触され死の恐怖を感じた
・交通事故により重傷を負い、当時の状況がフラッシュバックして夜も眠れない
・凄惨な事故の体験をしてから、心の体調がすぐれない
このように、交通事故がきっかけとなって深刻な心の不調を訴える被害者の方は多いようです。
今回は、交通事故によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に焦点をあてて、後遺障害として認めてもらうための基準や慰謝料相場などについて解説していきたいと思います。
交通事故によるPTSDの基礎知識
交通事故によりPTSDを発症する理由
交通事故の被害者は、事故による外部からの物理的な外力や衝撃に伴い恐怖や驚愕の感情を抱くことが多いです。
また、重大な怪我を負ったり後遺障害が残ったりすることによる苦痛、それに伴う将来への不安、加害者本人や相手保険会社との示談や賠償をめぐる軋轢などによるストレスなども影響して、PTSDを発症してしまうことも多いようです。
PTSDの意義・症例
PTSDは、強い外傷的なストレス因子となるものを体験したり巻き込まれたりした後で起こる症候群一般を意味します。
過去の恐怖、絶望の体験や出来事を、継続的に何度も思い出すことをできるだけ避けようとする精神障害です。交通事故によるPTSDは、交通事故に遭った後に数週間から数か月間の潜伏期間を経て、一定の精神症状が発現します。
PTSDの症状としては、以下のものがあります。
① 外傷的出来事の再体験(フラッシュバック)
② 事故を連想させるものの回避と受け入れがたい現実に対する精神的無感覚
③ 持続する過覚醒状態
PTSDの治療・リハビリ
PTSDの治療やリハビリの方法としては、大きく分けて認知行動療法と薬物療法が挙げられます。発症から数か月間経ても症状が改善しない場合には、精神科医と相談した上でこれらの治療法をためしていくことになります。
<認知行動療法>
PTSD患者は、外傷体験について思い出したり考えたりすることを避けようとする傾向にあります。認知行動療法では、このような傾向を見直して、別の視点から物事を考えられるように誘導する方法をとることがあります(認知処理療法)。
また、医師やカウンセラーの指導のもと、安全な環境においてあえて外傷体験を思い出させ、その恐怖に慣れさせることによりトラウマを乗り越えさせる「持続エクスポージャー療法」がとられることもあります。
<薬物療法>
また、PTSDの精神症状を薬物療法により軽減させる方法も一般的な治療法としてとられています。SSRIをはじめ、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることが多いようです。
(まとめ表)
PTSDを発症する原因 | 交通事故による恐怖・驚愕の体験 |
PTSDの症状 | ・フラッシュバック
・事故を連想させるものの回避 ・受け入れがたい現実への精神的無感覚 ・持続的な過覚醒状態 |
PTSDの治療法 | ・認知行動療法
・薬物療法 |
PTSDの後遺障害認定の基準は?
PTSDの後遺障害申請までの治療期間
交通事故が原因でPTSDを発症したとしても、必ず後遺障害として認定されるわけではありません。
PTSDの症状が重篤なものであっても、時間の経過とともに将来的に症状が大幅に改善する余地があると考えられているためです。
PTSDについては、多くの場合には半年~1年程度、長くても2年~3年程度の治療期間を経れば、治療により完治することがほとんどと考えられています。
そのため、一時的に症状が大きな改善がみられない状態に達したときであっても、治療期間が数か月と短い場合には、さらに経過観察などの措置をとるなどして療養を継続していく必要があります。
PTSDの治療期間が概ね1年半~2年を超える期間になった場合には、主治医と相談の上で症状固定の診断を受けて行為障害の申請を行うことになります。
PTSDの後遺障害認定基準
PTSDの後遺障害認定の審査においては、Aの精神症状の有無、Bの能力項目の欠如または制限の状況を評価しながら適切な等級が判断されることになります。
少なくとも、Aの項目のうち1つ以上の精神症状があり、Bの能力の一つ以上に障害が認められることが後遺障害認定の条件になります。
A 精神症状 | B 能力項目 |
①抑うつ状態 ②不安状態 ③意欲低下の上体 ④慢性化した幻覚・妄想性の状態 ⑤記憶または知的能力の障害 ⑥その他の障害(侵入、回避、過覚醒、感情麻痺) |
①身辺日常生活 ②仕事・生活における積極性・関心 ③通勤・勤務時間の順守 ④作業持続性 ⑤意思伝達 ⑥対人関係・協調性 ⑦身辺の安全保持・危機の回避 ⑧困難・失敗への対応能力 |
これらのAとBの項目を総合評価した結果として、以下の評価基準に基づいて等級認定がなされます。
・就労可能な職種が相当程度制限される場合には9級
・多少の障害を残す場合には12級
・軽微な障害を残す場合には14級
交通事故とPTSDとの因果関係
交通事故によるPTSDは、相手方保険会社から因果関係について争われることが多いようです。
・事故の1年以上後になってPTSDを発症した場合
・事故以外に職場などでストレス因子が存在する場合
・事故態様や怪我の程度が軽微である場合
などのケースでは、そもそもPTSDの発症自体が否定されるか、因果関係が否定されるなどして後遺障害として認められないことが多いようです。
PTSDの後遺障害の判例上の慰謝料相場は?
PTSDの判例上の慰謝料相場
交通事故が原因でフラッシュバックなどのPTSDの症状が後遺症として残り、PTSDの診断を受けたケースのうち、裁判においてもPTSDまたはPTSDに近い精神障害として認められた判例を以下の表にまとめました。
PTSDの精神症状の程度に応じて、後遺障害の等級が定められています。PTSDの場合、最も重いケースで9級の後遺障害認定をうけられるようです。実際の事例では他の後遺障害と合わせて併合8級が認定されているものもありました。
これらの判例からわかるPTSDの慰謝料相場としては、約300万円~800万円の範囲で定められているようです。ただし、そもそもPTSDの精神障害として認めてもらえないケースや、事故との因果関係を否定されるケースも多いことに注意が必要です。
(まとめ表)
判例年月日 | 認定等級 | 後遺障害の慰謝料額 |
さいたま地裁 H22.9.24 |
併合8級 | 830万円 |
京都地裁 H23.4.15 |
11級 | 400万円 |
大阪地裁 H20.1.23 |
併合12級 | 280万円 |
横浜地裁 H20.2.15 |
9級 | 690万円 |
仙台地裁 H20.6..27 |
9級 | 500万円 |
名古屋地裁 H23.5.20 |
12級 | 290万円 |
PTSDの後遺障害を弁護士に相談するメリット
交通事故が原因となってPTSDを発症したとしても、自賠責保険や裁判所で後遺障害として認めてもらうには、高いハードルがあるのが実情です。
PTSDについて、適切な後遺障害として評価してもらうには、専門知識を持った弁護士による適切なサポートを受けることが大切です。
まずは、自力で対応しようとせず、無料相談のサービスを利用して弁護士に相談してみることからはじめてみませんか?
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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