頭部の後遺障害入門
外傷性てんかんの慰謝料入門
このページでは、弁護士が「外傷性てんかんの基礎知識、認定基準と慰謝料相場、最近の判例の傾向」について解説しています。
外傷性てんかんの基礎知識
「外傷性てんかん」とは
てんかんとは、大脳が過剰に興奮すること(突発的発射という)が原因で2回以上のけいれん発作を起こす慢性の脳疾患をいう。
てんかんの症状と見誤りやすいものとしては、失神、心因発作、脳卒中、不整脈発作などがある。
外傷性てんかんとは、交通事故などによって頭部に怪我を負った後に発症するてんかん症状をいうが、外傷とてんかん発作との因果関係が必ずしも明らかではないため、「外傷後てんかん」と呼ばれることもある。
外傷性てんかんの分類
てんかんについては、その発症のタイミングで3つの分類がされることが多い。
頭部に怪我を負ってから24時間以内に2回以上のてんかん発作を発症するものは、「超早期てんかん」と呼ばれている。外傷後7日以内のてんかん発作は「早発てんかん」という。
いずれも、頭部外傷に伴うてんかん症状であることには変わりない。しかし、「外傷性てんかん」は、頭部外傷から8日以降に発症する「晩発てんかん」を指すのが一般的だ。
ただし、超早期てんかんや早発てんかんを発症したことは、外傷性てんかんの後遺症が残る危険因子として位置付けられている。
てんかん発作の時期 | 備考 | |
超早期てんかん | 外傷後24時間以内 | 外傷性てんかんに至る危険因子のひとつ |
早発てんかん | 外傷後7日以内 | |
晩発てんかん | 外傷後8日以降 | 「外傷性てんかん」とはこの分類を指すことが多い。 |
外傷性てんかんの診断基準
外傷性てんかんの診断にあたっては、①てんかんであることの診断と②脳の外傷に起因するてんかん発作であることの診断のいずれもが必要となる。
① てんかんであることの診断
てんかんの疑いがある場合には、患者の脳波を記録して、てんかん性放電や非突発性の異常所見がないかどうかを確認する。脳波と過去の病歴などから、臨床の専門医がてんかんの臨床診断を行うことになる。
さらに、てんかんの臨床診断が疑われる患者は、原則としてMRIまたはCTによる神経画像検査を受けるべきである。脳に器質的異常があれば、他覚的所見からてんかんの診断が可能になる。
② 脳の外傷に起因するてんかん発作であることの診断
脳波などの検査結果は、てんかんの診断には役立っても外傷性てんかんの診断には役立たない。
外傷性てんかんの診断基準としては、Walkerの基準が有名である。
(1)てんかん発作の症状が起きている
(2)外傷以前にはけいれんを起こしていない
(3)他に脳または全身疾患を持たない
(4)外傷は脳損傷をおこしうるほどに強かった
(5)最初のてんかん発作は、外傷以来あまり経過していない時期に起こった
(6)てんかん型、EEG、脳損傷部位が一致している
なお、外傷性てんかんでは、脳損傷部位に合致した低吸収域が認められることがあるため、CTやMRIなどの画像所見により客観的な脳損傷を立証できることが大切になる。
作者 Patrick J. Lynch, medical illustrator [CC BY 2.5 (https://creativecommons.org/licenses/by/2.5), GFDL (https://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) または CC-BY-SA-3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, ウィキメディア・コモンズ経由で
てんかんの後遺障害の基準は?慰謝料相場は?
交通事故による頭部外傷が原因で、てんかん発作が続く場合には、てんかんの頻度と程度に応じて後遺障害等級が認定されることになる。
てんかんの頻度としては、1か月に1回以上なのか、数か月に1回以上なのかによって基準が分かれる。てんかん発作の抑制の薬を服用せずに1年に1回程度しかてんかん発作が起こらない場合には、12級に認定される可能性があるにとどまる。
また、てんかんの症状の程度としては、「意識障害の有無を問わず転倒する発作」や「意識障害を伴い状況にそぐわない行為を示す動作」などがあるかどうかによって、等級が異なってくる。
てんかん症状がこれらの基準を満たした場合であっても、「事故とてんかんとの因果関係」が問題になることが多い。
事故による脳外傷が、MRI画像などにより確認できれば因果関係が認められる可能性が高まるといえる。一方、画像所見がない場合には、先に紹介したWalker基準などにあてはめて因果関係が判断されることになるだろう。
(まとめ表)
等級 | てんかん発作の頻度 | てんかん発作の程度 | 慰謝料相場 |
5級 | 1か月に1回以上 | 転倒または意識障害あり | 1400万円 |
7級 | 数か月に1回以上 | 転倒または意識障害あり | 1000万円 |
1か月に1回以上 | 転倒または意識障害なし | ||
9級 | 数か月に1回以上 | 転倒または意識障害なし | 690万円 |
発作の継続なし | 服薬継続により発作が抑制されている | ||
12級 | 発作なし | 脳波上に明らかにてんかん性棘波をみとめる | 290万円 |
外傷性てんかんについての最近の判例は?
交通事故による外傷性てんかんについては、過去の裁判例のなかで事故とてんかんとの因果関係が争われている。
とくに、事故における頭部への衝撃が小さい場合には、そもそも外傷性てんかんに当たるのか否かが問題になることが多い。
過去の判例では、脳波検査や脳の画像所見に異常がないことを理由として、事故とてんかんとの因果関係を否定したものもある。
一方、事故以前にはてんかん症状を発症したことはなく、専門医からてんかんの診断も受けていること、てんかん治療を継続していることなどから、因果関係を肯定したものもある。
自賠責保険における後遺障害認定においては、脳波の異常所見や画像所見などが非常に重視される。そのような所見がない場合には、民事裁判を起こさなければ適正な補償を受けられないことも多いといえるだろう。
(まとめ表)
判例年月日 | 因果関係の判断 | 概要 |
東京地裁H11.11.26 | 否定 | 脳波検査の異常なし、画像所見なし |
神戸地裁H15.2.20 | 肯定 | 事故以前のてんかん症状はなく、てんかんの診断を受けてから治療を継続している。 |
大阪地裁H15.6.27 | 肯定 | Walkerの診断基準に該当するとともに、医師が外傷性てんかんと診断している。 |
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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