顔眼鼻口の後遺障害マニュアル

鼻の後遺障害の慰謝料マニュアル

このページでは、弁護士が「鼻の後遺障害の種類後遺障害等級認定」について解説しています。

交通事故により顔に大けがを負った場合、顔のなかでも突出している部位である鼻は損傷しやすい部位のようです。鼻自体が損傷しなくても、脳に損傷を負った結果、嗅覚を失ってしまう被害者も多いようです。

日常生活においては、想像以上に鼻が果たす機能は大きいものです。鼻にまつわる後遺障害で苦しまれている被害者の方向けに、鼻の後遺障害の基礎知識と慰謝料について解説していきます。

鼻の欠損障害・醜状障害の基礎知識

鼻の障害には、どういったものがありますか?また、障害の種類によって後遺障害等級の認定が受けられないことはありますか?

鼻の障害は大きく分けて2つに分けられます。一つは、鼻の軟骨を失ってしまった「欠損障害」、もう一つは、鼻の機能が喪失または制限されてしまった「欠損を伴わない機能障害」があります。

なるほど、鼻そのものがなくなることによる障害と、嗅覚を失うことによる障害の2種類があるわけですね。

鼻骨

鼻骨(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

鼻の欠損障害

交通事故により鼻の軟骨の大部分を失い、かつ鼻の機能に著しい制限が出た場合には、鼻の欠損障害として9級5号が認定されることになります。鼻の機能の制限とは、鼻呼吸が困難になることか、または嗅覚を失うことをいいます。

「欠損障害」という名称でありながら、鼻の機能障害も含まれるので注意が必要ですね。ただし、鼻の軟骨の大部分が失われると、鼻の機能にも大幅な制限が伴うケースが大半であるため、実際上はあまり問題にならないことも多いといえそうです。

等級 後遺障害の内容
9級 5号 鼻軟骨の全部または大部分を欠損

鼻呼吸困難または嗅覚脱失が残るもの

鼻の欠損を伴わない機能障害

交通事故による脳損傷により、鼻の機能に制限が出る場合には鼻の軟骨の欠損を伴わずに、嗅覚などの機能に制限が生じることがあります。このような場合には、鼻の機能障害として相当な等級が認定されます。

嗅覚の脱失・減退

交通事故による怪我が原因で臭いを感じる経路に障害が起こると、正常に臭いを感じとることができなくなる嗅覚障害が残ることがあります。

嗅覚障害は、嗅覚脱失(においが全くわからない状態)と嗅覚減退(においをかすかにしか感じられない状態)に分けることができます。

これらの症状が出ると、日常生活を送るのにさまざまな支障をきたすこととなりますが、裁判では必ずしも労働能力に直接影響を与えるものとして労働能力の喪失が認められるわけではありません

裁判例を見ると、労働能力の喪失自体を否定するものや労働能力の喪失を否定まではしないが、労働能力喪失率を制限しているものもあります。

ただ当然、上記のようなケースとは逆に、嗅覚脱失が等級どおりの喪失率が認められたものや、等級以上の喪失率を認めた裁判例もあります。

裁判所は、労働能力の喪失の有無及び程度は、性別、年齢、減収の有無及び程度、嗅覚脱失・減退による職業への具体的な影響等の事情を総合的に考慮して決められるとしていますので、あくまでケースバイケースというスタンスをとっています。

嗅覚の検査方法

嗅覚の脱失・減退について、嗅覚障害を検査する方法は、日本では現在、次の2つの検査が行われています。

嗅覚の検査方法

基準嗅覚検査

「T&Tオルファクトメーター」は、5種類の臭いの液体が、それぞれ8段階の濃度に分かれており、これを順番に濾紙に浸み込ませて鼻に近づける方法で行います。どの濃度で臭いを感じることができたかをチェックすることで、嗅覚障害の程度を判定することとなります。

なお最近では、この臭いの素のスプレーを鼻孔の中に吹き付けて検査を行う方法が主流となりつつあります。

静脈性嗅覚検査

ビタミンB1剤を静脈注射すると、通常は血液中を巡ったビタミンB1の臭い成分が10秒ほどで肺から呼気と一緒に吐き出されます。このとき、鼻の奥でにんにく臭を感じます。この臭いは、おおよそ1分半くらい持続しますが、嗅覚障害があると、臭いを感じるまでの時間が長くなったり、臭いを感じている時間が短くなったりします。

これらの時間を計測することにより、嗅覚障害の有無を判定します。静脈性嗅覚検査は、嗅覚障害の程度までは分かりませんが、手軽に行うことができるため、治療中にも行い症状改善の度合いを調べるのにも有効とされています。

※嗅覚の脱失については、アリナミン静脈注射(「アリナミンF」を除く)による静脈性嗅覚検査による検査所見のみによって確認しても差し支えないとされています。

鼻呼吸困難

交通事故により、鼻呼吸を行うことが困難な状態になると、鼻の軟骨の損傷がなくても12級相当の後遺障害に認定してもらうことができます。

鼻呼吸ができなくても口呼吸ができるのであれば、日常生活や仕事に支障はないともいえそうですが、肉体労働などについては労働能力に一定の制約が出ることが多いと考えられます。

等級 類型 後遺障害の認定基準
12級相当 嗅覚脱失 T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認定域値の平均嗅覚損失値が5.6以上の場合
12級相当 鼻呼吸困難 鼻の欠損を伴わない場合であっても、鼻呼吸困難の障害を残す場合
14級相当 嗅覚の減退 T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認定域値の平均嗅覚損失値が2.6以上5.5以下の場合

鼻を全部または一部欠損したとき、実際はどの等級が認定されるの?

鼻の全部または一部を欠損したときは、実際にはどの等級が認定されるのでしょうか?

鼻の欠損障害については9級が認定されますが、それ以外に「醜状障害」といって、顔の見た目が変わったことに対する後遺障害等級もつくことになります。いずれか重いほうの等級認定が採用されることになるのです。

たしかに、鼻を失うと、顔全体の見た目が変わるのでそこは考慮してもらわないとおかしいですもんね。

鼻の欠損障害と醜状障害、機能障害と関係について

鼻軟骨を大部分失ったケースでは、鼻の機能に著しい障害を残す場合は、9級5号に該当しますが、一方で外貌の醜状障害として7級12号にも該当することになります。

この場合、それぞれの等級を認定して併合するのではなく、いずれか上位の等級によって認定されることとなるので、等級の認定は第7級12号となります。

鼻を一部失ったにすぎない場合であっても、顔の見た目が変わったことに対して、醜状障害として12級が認定されることになります。これに加えて、嗅覚の喪失または鼻呼吸困難の機能障害が加わると、併合11級が認定されることになります。

鼻の一部または鼻翼の欠損 鼻の全部または大部分の欠損あり
嗅覚脱失または鼻呼吸困難あり 併合11級(醜状障害+鼻の機能障害) 7級
(醜状障害)
嗅覚脱失または鼻呼吸困難なし 12級
(醜状障害)

鼻の障害に関する判例上の慰謝料の相場は?

鼻の障害に関する判例による慰謝料の相場は、いくらぐらいなのでしょうか?

鼻の障害の種類と程度によって金額は変わってくるので、おおよその目安の一覧を実際の裁判例を含めて紹介しておきます。

やはり実際の判例をみると、慰謝料の重みが感じられますね。

慰謝料の自賠責基準と裁判基準

ひとくちに「鼻の後遺障害の慰謝料」といっても、障害の種類と程度によって慰謝料の金額は変動するようです。

たとえば、鼻の欠損障害で9級が認定されると、自賠責保険の基準では245万円であるのに対し、裁判基準では600万円~700万円が相場水準となっています。

鼻呼吸困難、嗅覚減退の場合の慰謝料相場についても、それぞれの基準で以下の表にあるとおり掲載しておきましたので、参考にしてみてください。

鼻を欠損し、著しい障害を残すもの
(9級)
自賠責基準 裁判基準(赤、青)
245万 690万(赤本)
600万~700万(青本)
鼻により呼吸困難
(12級)
自賠責基準 裁判基準(赤、青)
93万 290万円(赤本)
250万~300万(青本)
嗅覚減退
(14級)
自賠責基準 裁判基準(赤、青)
32万 110万(赤本)
90万~120万(青本)

実際の判例上の慰謝料相場

鼻の後遺障害に関する判例においては、とくに嗅覚脱失との関係で慰謝料は大きく変動しているようです。

嗅覚脱失は、鼻の嗅覚がすべて失われてしまったことによる後遺障害を意味しますが、特殊な職業についていない限り、嗅覚が労働能力に影響を与える場面は少ないのです。

そのため、12級相当の嗅覚脱失の後遺障害が残った場合であっても、将来の収入減少分である逸失利益が全く認められないケースもあるのです。

以下の表で紹介した判例のうち、東京地判H11.5.25の判例では、嗅覚脱失による逸失利益が認められなかった代償として、12級の慰謝料としては大幅増額の600万円が認められています。

このように慰謝料は、すべての損害の調節機能も果たすため、一概にいくらの慰謝料がもらえるかを判断することはむずかしいのです。できるだけ早期に弁護士に相談した上で、保険会社との示談は慎重に行うように心がけましょう。

判例年月日 後遺障害の内容 後遺障害の等級 後遺障害慰謝料
名古屋地判
H21.1.16
嗅覚脱失 併合11級 420万円
名古屋地判
H20.1.25
嗅覚減退 12級 290万円
東京地判H13.2.28 嗅覚脱失 12級 415万円
(傷害部分も含む)
東京地判
H11.5.25
嗅覚脱失
外貌醜状
併合12級 600万円
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