上肢・下肢の後遺障害の手引き
肩・上腕の後遺障害慰謝料の手引き
このページでは、弁護士が「肩・上腕の後遺障害の慰謝料」について解説しています。
交通事故で鎖骨や肩甲骨、上腕骨を骨折してしまうと、リハビリに長期間かかることも多いようです。
終わりのみえないリハビリ生活、保険会社とのやりとりの負担、後遺障害が残るのではないかという不安などが被害者の方々に重くのしかかってきているのではないでしょうか。
まずは肩・上腕骨の後遺障害に対する正しい知識と慰謝料の相場を把握することからはじめてみませんか?
肩・上腕骨の外傷の基礎知識
交通事故による肩の外傷
交通事故では、上腕を保持している筋肉や関節のクッションが断裂する怪我を負うことが多いようです。
主な傷病名としては、たとえば以下のものが挙げられます。
● 回旋腱板損傷
回旋腱板損傷とは、上腕を保持している筋肉の挟み込みや炎症で断裂を起こすものです。腱板損傷という名称からも分かるとおり、ケースによっては手術が必要になることもあります。
● 肩関節唇断裂
肩の関節においてクッションの役割を果たしている繊維状の組織である関節唇の断裂が生じることもあります。交通事故では、肩関節の亜脱臼に伴って発生することが多いようです。
交通事故による上腕骨の骨折
交通事故の被害を受けた際に、腕を伸ばしたまま転倒した場合や直接的な衝撃を受けることで、上腕骨の骨幹部が骨折することがあります。
上腕骨の中心部分で骨折が発生した場合には、橈骨神経が損傷する恐れもあり、その場合上腕部だけではなく手首にも痛みが生じてくることもあります。
(まとめ表)
肩の外傷 | 上腕骨の骨折 | |
症状 | ・腕を頭上や後ろに動かすと痛む(外側に開きにくい) ・腕を動かしていないのに痛む ・痛みを伴う鈍い音がする |
・腕が上がらない ・手首が上がらない |
治療方法 | ・つり包帯で固定 ・炎症を抑える薬の注射 ・理学療法 ※痛みが改善しない場合には、手術が必要 |
・つり包帯、包帯 ※骨がかなり離れた場合には手術が必要 ※肩関節に及ぶ場合にはインプラントが必要 |
肩・上腕の後遺障害にはどんな種類があるの?
肩・上腕の後遺障害についての悩み
交通事故により、上腕骨や肩甲骨が骨折し、肩が上がらない、痛みがとれないなどの悩みを持っている被害者は多いようです。そんな被害者にとって、通院や診察にかかる時間や費用は大きな負担になります。
もし、通院できなくなってしまったら、ケガを抱えたまま過ごしていかなければなりません。なかには、治療を継続したものの症状は完治しないままになってしまう場合もあります。
そうなってしまったら、「これから働けるのか…もし、働けなかったら、どう生活していこう…」など、悩みはつきません。
「加害者が任意保険に入っているから大丈夫!」とお思いのあなた。その慰謝料は、適正ですか…?
肩・上腕の欠損障害
肩・上腕の欠損障害とは、肩から先の腕の部分(上肢)の一部を失うことです。肘関節以上か手関節以上か、それが両上肢に生じたか一方の上肢に生じたかによって等級が認定されます。
【肩・上腕の欠損障害での等級認定基準】
1級3号 | 両上肢を肘関節以上で失ったもの | ・肩関節において、肩甲骨と上腕骨を離脱したもの ・肩関節と肘関節との間において上肢を切断したもの ・肘関節において、上腕骨と橈骨及び尺骨とを離脱したもの |
2級3号 | 両上肢を手関節以上で失ったもの | ・肘関節と手関節の間において上肢を切断したもの ・手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離脱したもの |
4級4号 | 上肢を肘関節以上で失ったもの | 1級3号と同様 |
5級4号 | 上肢を手関節以上で失ったもの | 2級3号と同様 |
肩・上腕の機能障害
肩・上腕の機能障害とは、肩、肘、手の3大関節の動き(可動域)の障害をいいます。その可動域制限の程度や障害が両上肢に生じたか、一方の上肢に生じたかによって等級が認定されます。
等級認定基準は、以下のとおりです。
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | ・3大関節(肩、肘、手関節)の全てが硬直しかつ手指の用を廃したもの ・上腕神経の完全麻痺も含まれる |
5級6号 | 上肢の用を全廃したもの | 同上 |
6級6号 | 上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | ・関節が硬直したもの ・関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの ・人工関節、人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度のかつ1/2以下に制限されているもの |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 同上 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | ・関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの ・人工関節、人工骨頭をそう入置換した関節のうち、上記「関節の用を廃したもの」以外のもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能の著しい障害を残すもの | ・関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもの |
肩・上腕の変形障害
肩・上腕の変形障害とは、偽関節を残すものまたは長管骨にゆ合不全を残すもののことを言います。偽関節とは、骨折等による骨片間のゆ合機転が止まって異常可動を示すものをいいます。
骨に偽関節や癒合不全の後遺障害が残ってしまうと、様々な日常生活や仕事上の動きに制限がかかるとともに、その部分に恒常的な痛みやしびれなどの神経症状を残すことが多いとされています。
変形障害の等級認定基準
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの | ・上腕骨の骨幹部または骨幹端(骨幹部等)にゆ合不全を残すもの ・橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すもの |
肩・上腕骨の後遺障害に関する判例の慰謝料相場は?
肩・上腕部の欠損障害に関しては、骨の離断・切断に関して客観的な基準が定められているため、等級の争いはそれほどありません。また、1級から5級という高い等級が認定されるため、自賠責上の労働能力喪失率は高く設定されています。
しかし、上肢の欠損の場合には下肢と異なり、自賠責の労働能力喪失率を同程度の減収が生じていない場合もあります。
判例上は今後の減収の可能性、職を失う可能性、再就職の際の制約などを考慮し、労働能力喪失率をそのまま認定しているものが多いですが、裁判に至った場合にはそれらの点の主張や立証が重要になります。
肩・上腕部の機能障害に関して、関節の可動域制限はその可動域角度の違いが大きく等級に影響を及ぼします。その認定にあたっては、後遺障害診断書に記載された可動域角度が重要です。
また、機能障害が認定されるためには、原則として器質的損傷が必要とされます。動きが制限される原因を明確にしておくことが重要です。
肩・上腕部の変形障害は下肢の変形障害に比較すると実際の労働に与える影響が小さい場合が多いため、労働能力喪失率の判断については、減収があるか否か、減収を防ぐための努力をしているのか否かなども重要になってきます。
具体的な判例における肩・上腕の後遺障害の慰謝料の認定例は以下の表にまとめたとおりです。やはり、認定された後遺障害の等級が慰謝料額の目安となっていることがわかります。
慰謝料や逸失利益について適切な補償を受けるためには、早期に弁護士のサポートを受けつつ、適切な後遺障害等級を認定してもらうことが大切になります。
弁護士に相談することを面倒に感じて自力で対応してしまうのではなく、必ず専門家のサポートを受けるようにしましょう。
(まとめ表)
判例年月日 | 後遺障害の内容 | 後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料 |
京都地判 S57.12.9 |
右上腕の切断 | 4級 | 1000万円 |
仙台地判 H22.5.18 |
右腕の全廃 | 5級 | 1400万円 |
大阪地判 H15.12.24 |
右肩の可動域制限 (右肩腱板断裂) |
10級 | 560万円 |
東京地判 H16.12.21 |
右肩関節の可動域制限 | 12級 | 290万円 |
大阪地判 H25.3.26 |
右上腕骨の偽関節、右肩の可動域制限 | 併合7級 | 1050万円 |
東京地判H18.1.11 | 左上腕骨の偽関節等 | 併合11級 | 420万円 |
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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