顔眼鼻口の後遺障害マニュアル
耳の後遺障害の慰謝料マニュアル
このページでは、弁護士が交通事故による難聴・聴力障害、耳鳴り、耳漏の後遺障害の慰謝料について解説しています。
難聴・聴力障害の基礎知識
交通事故による難聴・聴力障害の原因は?
交通事故による難聴・聴力障害の原因としては、様々なものがありますが、ここでは代表的な3つの原因を紹介します。
①内耳振盪症
最も一般的な原因と言えます。耳の最も内側にある内耳には、リンパ液と呼ばれる液体が通っており、交通事故の衝撃によりこのリンパ液が振動することにより、難聴等の症状が発生します。
②側頭骨の骨折
交通事故により、耳周辺の頭蓋骨が骨折することにより、耳の各器官が障害を受け、難聴や聴力障害を引き起こします。
③外リンパ瘻(ろう)
交通事故の衝撃により、内耳の一部に穴があき、中のリンパ液が漏れ出すことをいいます。難聴等の症状の他、外リンパ瘻特有の耳鳴りが生じ、手術が必要となることもあります。
人の耳(紫色が内耳)1.骨導、2.外耳道、3.耳殻、4.鼓膜、5.前庭窓、6.槌骨、7.砧骨、8.鐙骨、9.三半規管、10.蝸牛、11.聴神経、12.耳管
作者 Iain [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) または CC-BY-SA-3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, ウィキメディア・コモンズより
聴力検査を実施する時期と検査方法
交通事故による難聴や聴力障害の後遺症認定のための検査は、療養を行い、その症状が固定化された状況で行います。
検査方法としては、一定の音が聞こえるかを検査する、純音聴力検査と呼ばれる方法と、言葉の聞き取りの能力を検査する語音聴力検査があります。
平均純音聴力レベルとは
平均純音聴力レベルとは、難聴や聴力障害の後遺症認定の基準となる数値で、純音聴力検査の2回目と3回目の数値の平均で算定されます。一般的に、30dB(デシベル)以下の数値が正常な範囲であると言われ、40dBを超えると難聴や聴覚障害の後遺症認定がされる場合があります。
聴力障害の後遺障害認定基準の具体例
聴力検査の結果と後遺障害等級との関係は、以下に示す表のとおりです。
これらの表から分かる通り、後遺症等級の認定は、純音聴力検査の結果としての聴力(平均純音聴力)と、語音聴力検査の結果としての最高明瞭度の数値のバランスによって決定されます。
そして、後遺症認定を受けるための最低数値は、聴力については40dB以上、最高明瞭度については70%以下であることが必要になります。
耳鳴り・耳漏・耳の欠損の後遺障害
耳鳴りの後遺障害
交通事故により耳鳴りが生じる理由としては、外傷を原因とする場合と、心因的な側面を原因とする場合があります。
外傷性の理由として一般的なのは、むちうちに伴う耳鳴りです。
現在、交通事故でむちうち状態となった患者のうち、約10%の患者に耳鳴りが生ずることが確認されています。頚椎周辺の損傷により、交感神経の活動が異常化し、耳につながる血管が収縮・拡張することが原因と考えられています。
心因的な側面での理由としては、交通事故に伴うストレスが原因となっていることが多いです。ストレスを受けることにより交感神経の活動が活発化し、血管が拡張することが原因と考えられています。
耳鳴りについての後遺障害等級認定基準は、以下の通りです。
後遺障害の内容 | |
12級相当 | 耳鳴りにかかる検査によって難聴に伴い著しい耳鳴りが常時あると評価できる |
14級相当 | 難聴に伴い常時耳鳴りがあることが合理的に説明できる |
この表の、「耳鳴りにかかる検査」とは、「ピッチ・マッチ検査」と「ラウドネス・バランス検査」をいいます。「ピッチ・マッチ検査」では、耳鳴りの音の高さを検査し、「ラウドネス・バランス検査」では、耳鳴りの音の大きさを検査します。
耳漏の後遺障害
耳漏(じろう)とは、耳の中に溜まった液体が、鼓膜が破れることにより外部に出てくる症状を言います。交通事故においては、事故の衝撃により、脳脊髄液という脳を包んでいる液体が漏れ出すことによって生じることが多いとされています。
耳漏についての後遺障害等級認定基準は、以下の通りです。
後遺障害の内容 | |
12級相当 | 鼓膜の外傷性穿孔による耳漏が常時あるもの |
14級相当 | 鼓膜の外傷性穿孔による耳漏があるもの |
14級相当 | 外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないもの |
耳の欠損の後遺障害
交通事故の衝撃により、耳の一部が失われてしまうことがあります。以下の通り、耳の半分以上を失ってしまった場合に限り、12級の後遺症等級認定がされることとなります。
後遺障害の内容 | |
12級 | 耳の軟骨部の1/2以上を欠損したもの |
また、仮に両耳について欠損が生じてしまった場合には、1つの耳ごとに等級を定め、それらを併合して認定することとなります。
耳の欠損と醜状障害との関係
耳の欠損により、その外観に醜状を残すと認められる場合には、耳の欠損による後遺症等級認定に加え、醜状障害としての後遺症等級認定がされることがあります。その場合、耳の欠損の後遺障害等級と醜状障害の後遺障害等級のいずれか上位の等級により認定されます。
耳の欠損に伴う醜状状態の後遺障害等級認定基準は、以下の表の通りです。
そのため、耳を1/2以上失った場合には、耳の欠損障害としての12級よりも、醜状障害(しゅうじょうしょうがい)としての7級のほうが等級が重いため、7級が認定されることになります。
また、耳を一部失ったにすぎないために、耳の欠損障害として12級に当たらない場合でも、醜状障害として12級に認定されることになります。
耳の軟骨部の1/2以上の欠損 | 耳の軟骨部の一部(1/2未満)の欠損 |
7級(醜状障害) | 12級(醜状障害) |
耳の障害に関する裁判例の慰謝料相場は?
耳の障害に関する慰謝料請求についての裁判例をいくつかご紹介します。
判例年月日 | 後遺障害の内容 | 後遺障害の等級 | 後遺障害慰謝料 |
高松地判 昭和61.9.19 |
難聴、耳鳴り | 9級9号 | 不明 |
東京地判 平成6.1.25 |
難聴等 | 12級 | 300万円 |
神戸地判 平成7.12.19 |
聴力障害、耳鳴り | 14級 | 150万円 |
大阪地判 平成13.8.28 |
難聴等 | 9級9号 | 不明 |
大阪地判 平成16.6.15 |
難聴等 | 9級9号 | 616万円 |
東京地判 平成19.11.5 |
片耳の聴力喪失 | 9級9号 | 700万円 |
岡山地判 平成21.5.28 |
聴力障害 | 11級 | 420万円 |
このように、同じような難聴や聴力障害についても、その具体的な事情に応じてかなり慰謝料の金額に開きがあることが分かります。軽微なものだと100万円程度、重いものだと700万円もの慰謝料を請求できることになります。
また、難聴などの障害によって仕事に支障が出て、将来的に年収が下がる可能性がある場合には、慰謝料とは別に逸失利益を請求できます。ケースによりますが、逸失利益のほうが金額的には慰謝料額よりも高額になることも多いのです。
慰謝料や逸失利益の金額は、具体的な事情によって大きく異なるため、被害を受けた本人が正確にその相場を見極めることは困難です。
そのため、早めに交通事故に強い弁護士に相談をし、具体的な慰謝料の目安等を確認することが重要となってきます。
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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