頭部の後遺障害入門
脳脊髄液減少症の慰謝料入門
このページでは、弁護士が「脳脊髄液減少症の基礎知識と後遺障害の慰謝料」について解説しています。
脳脊髄液減少症ってどんな病気なの?
2年前ほどに、横断歩道で自動車に接触する交通事故に遭ってしまいました。当時は、むちうちと診断されたのですが、事故後から今まで酷い頭痛の症状が改善しません。
交通事故で酷い頭痛が継続する場合、精密検査を受けることが大切です。単なるむちうちではなく、脳脊髄液減少症という病名がつくこともあるのです。
脳脊髄液減少症…ですか。なんだか難しい名前ですね。一体どんなものなんですか?
脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは、「脳の硬膜から脊髄液が漏れ出し、頭蓋内圧が低下するなどして、頭痛等の症状が起きる病気」であるといわれています。
人間の脳は、「硬膜」という袋状の物に包まれており、この袋の中は、「髄液」といわれる液体に包まれています。要するに、通常人間の脳は、この髄液の中に浮いた状態になっているのです。
そして、なんらかの原因により硬膜が破損し、中の髄液が漏出すると、硬膜内の髄液の量が減り、圧力が下がることで、脳が動きやすくなります。この脳の不安定な状態により、頭痛や吐き気、めまい、耳鳴り等様々な症状が引き起こされるのです。
発症頻度 | 具体的な症状 |
典型的な症状 | 立ちあがった際の頭痛(起立性頭痛) |
多く認められる症状 | 頚部の痛み、めまい、全身の倦怠感、吐き気、耳鳴り等 |
まれに認められる症状 | 脳機能障害(視力低下等)自律神経症状等 |
交通事故による外傷と脳脊髄液減少症との関係は?
近年、交通事故によるむちうち等により、脳脊髄液減少症が発症しうることが確認されています。すなわち、交通事故による外部的衝撃により、硬膜が破損し、脊髄液が漏れ出すことがあるということです。
しかし、脳脊髄液減少症はその症状が広く認知されている訳ではなく、むちうちとして保険の適用を受けたが、実際には髄液が漏出していたため症状が長期間続いている、といったこともあるようです。
そのため、上記の表のような脳脊髄液減少症の症状が長期間続くような場合には、より専門的な診断を受けることが重要です。
(参考) むちうち症と脳脊髄液減少症の症状の違い
むちうち症 | 脳脊髄液減少症 | |
症状が続く期間 | 約半年ほど | 数年以上継続することも |
具体的症状 | 頭痛、めまい、倦怠感、吐き気等 | むちうち症の症状の他にも、自律神経系の症状や、脳神経の機能障害(聴力低下、視力低下等)が生じることも |
脳脊髄液減少症の診断基準は?
脳脊髄液減少症の診断を得るためには、どのような検査を行う必要があるのでしょうか。
腰から硬膜の中に細い針を刺し、硬膜穿刺という方法で髄液の圧力を測ったり、MRI等による画像診断により、硬膜の破損と髄液の流出が認められないか確認したりします。
なんだか大変そうですね。では、検査の結果、どういった事情が認められれば、脳脊髄液減少症と診断されるんですか?
【審査基準の変遷について】
脳脊髄液減少症については、現在でも明確かつ普遍的な診断基準は存在しません。しかし、脳脊髄液減少症の症状が確認された近年では、その診断基準を一般的にしようと、様々な基準が提唱されてきました。
そして、今日では、厚生労働省の研究班が、平成23年10月に中間報告として発表した「厚労省中間報告基準」と、国際頭痛委員会という期間が平成25年に発表した「新国際頭痛分類基準」という2つの基準が最新のものであり、信頼できる基準とされています。
この2つの基準は、裁判における後遺症の認定にも用いられています。
【具体的な診断基準について】
新国際頭痛分類基準によれば、脳脊髄液減少症の診断基準については、以下のものが挙げられます。
● 髄液の漏出の原因となることが知られている手技が行われている、または外傷が発生している
● 低髄液圧(60mmH2O未満)またはMRI等の画像による低髄液圧や髄液漏出の証拠
● 頭痛が手技または外傷の時期に一致して発現した
● 他に最適な診断内容がないこと
これらのうち、裁判上特に争いになるのが、低髄液圧の確認やMRI画像等による髄液流出の確認、及び外傷等の時期と一致する症状の発現です。
そのため、医師による明確な低髄液圧および髄液流出の所見の証拠と、外傷等と同一時期から症状があることを何らかの形で証明する証拠が特に重要になります。
脳脊髄液減少症の裁判例の傾向と慰謝料相場は?
脳脊髄液減少症を裁判で主張した場合、どの程度の裁判所に認定してもらえるのでしょうか。
残念ながら、最近の裁判例は、脳脊髄液減少症の認定を否定するケースが多いです。しかし、脳脊髄液減少症の診断基準等をきちんと理解した上で適切な主張をすれば、認定の可能性を上げることができます。
そうなのですね…。なんとか裁判所に症状を認定してもらいたいです。
(参考)近時の脳脊髄液減少症に関する判例
判例年月日 | 脳脊髄液減少症の肯否 | 認容された慰謝料額(後遺障害部分のみ) |
東京高判 平22.10.20 |
否定 | 0円 |
名古屋高判 平成23.3.18 |
肯定 | 不明 |
大阪高判 平23.7.22 |
肯定 | 110万円 |
大阪高判 平24.2.23 |
肯定 | 不明 |
東京高判 平24.5.30 |
否定 | 0円 |
東京地裁 平26.10.17 |
否定 | 0円 |
東京地判 平26.11.26 |
否定 | 110万円※1 |
さいたま地判 平26.12.4 |
肯定 | 550万円 |
東京高判 平27.2.26 |
否定 | 110万円※2 |
※1 頚椎捻挫を認定
※2 外傷性頚部症候群を認定
この表のように、以前の判例では一定程度脳脊髄液減少症の認定がされていたものの、最近では発症自体が否定される傾向が顕著になっています。
現在の裁判所に脳脊髄液減少症の認定をさせるためには、より具体的な証拠と適切な主張を要すると言わざるを得ないでしょう。
慰謝料については、脳脊髄液減少症が認められれば、少なくとも110万円の後遺障害慰謝料が認められる傾向にあります。
その中でも特に後遺症としての被害が顕著と言える場合には、500万を超える後遺障害慰謝料と逸失利益が認められるケースもあります。
後遺障害の慰謝料.comの監修医師
藤井 宏真 医師
奈良県立医科大学附属病院 勤務
アトム法律事務所 顧問医
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