交通事故でPTSD…精神障害の慰謝料はどう請求する?
作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故でPTSD…精神障害の慰謝料はどう請求する?
交通事故による被害は、身体的なものだけでなく精神面へも影響することがあります。本日は「交通事故でPTSDを負ったら」をテーマに、PTSDの基本から、交通事故における慰謝料請求の内容についてまで詳しく解説していきます。
交通事故が原因でPTSDは発症する?
「PTSD(=心的外傷後ストレス障害)」とは、命がおびやかされるなどの恐ろしい体験が引き金となって精神的な後遺症が残ることをいいます。
PTSDの原因
交通事故・自然災害に巻き込まれた
犯罪の被害を受けた
家族などを目の前で亡くした
など生命の危機を感じたりする衝撃的な体験で受けた心的ストレスがPTSDの原因となることが多いようです。もっとも、同じような体験をしたすべての人がPTSDを発症するとはかぎりません。その人自身が生まれ持った性格などさまざまなことが影響してPTSDを発症するのではないかと考えられています。
交通事故によるPTSDの症状例
PTSDの症状はつぎのようなものがあげられます。
PTSDの症状
●侵入症状●
辛い記憶を突然、思い出す(フラッシュバック)
悪夢にうなされる
●回避症状●
辛い記憶を思い出す状況や場面を避ける
無意識に回避していることもある
●認知、気分の陰性の変化●
自分を責める
罪の意識にさいなまれる
人を信用できない
感情・感覚がにぶって楽しさなどを感じない
●覚醒度、反応性の変化●
常に神経を張りつめている
不眠で眠れない
イライラする、怒りっぽくなる
びくびくする
物事に集中できない
薬などに依存する(依存症)
など、このような症状が数ヶ月にわたり、良くなったり悪くなったりを繰り返します。
交通事故のPTSDは後遺障害に該当する
後遺症(後遺障害)
治療をつづけても症状の回復が期待できない状態で症状が残ること
交通事故の後遺障害では、障害部位、内容に応じて14段階の等級で区分される
交通事故で負ったPTSDは、「非器質性の精神障害」という後遺障害に該当する可能性があります。脳組織に物理的な損傷がないことで生じるものを非器質性の精神障害としています。
PTSDで後遺障害の認定を受けるには、
少なくとも「精神症状」が1つ以上ある
「能力」に1つ以上の障害が認められる
これら2点を満たしている必要があります。
精神症状 | |
---|---|
① | 抑うつ状態 |
② | 不安状態 |
③ | 意欲低下の上体 |
④ | 慢性化した幻覚・妄想性の状態 |
⑤ | 記憶または知的能力の障害 |
⑥ | その他の障害(侵入・回避・過覚醒・感情麻痺) |
能力 | |
① | 身辺日常生活 |
② | 仕事・生活における積極性・関心 |
③ | 通勤・勤務時間の順守 |
④ | 作業持続性 |
⑤ | 意思伝達 |
⑥ | 対人関係・協調性 |
⑦ | 身辺の安全保持・危機の回避 |
⑧ | 困難・失敗への対応能力 |
精神症状と能力の項目を総合的に評価した結果が、自賠責保険における後遺障害等級の認定基準を満たしているかどうかがみられます。具体的な認定基準については後ほど解説します。
PTSDの後遺障害認定で増加する慰謝料・逸失利益
PTSDが「後遺障害」に認定されることで、等級に応じた後遺障害慰謝料・逸失利益の請求を交通事故の相手方にすることができるようになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害を負ったことで受けた精神的苦痛に対する損害賠償
後遺障害の等級に応じて後遺障害の金額相場はあらかじめ設定されています。
後遺障害の逸失利益
後遺障害を負ったことで労働能力が低下あるいは喪失することで将来得られたであろう収入が減少することへの損害賠償
逸失利益は職業・年齢など、被害にあわれた方の状況に応じて算出方法が異なります。もっともどのような人でも共通する基本的な計算方法はあります。
計算式
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数 |
基本の計算で用いられる「労働能力喪失率」は、
障害の部位
障害の程度
事故前の収入
職業、職種
など個人の状況に合わせて総合的な判断のもと増減することがあります。主婦などにおける年収の算定方法・ライプニッツ係数一覧などについて詳しくは、関連記事をご確認ください。
<関連記事>交通事故における逸失利益の計算方法
労働能力喪失率は、等級ごとに目安となる基準が決められています。後遺障害の認定が得られても症状にふさわしくない等級だと、適正な補償を得ることができるとは言えません。後遺障害の認定は、後遺障害の知識を多く持った弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害等級の申請方法|PTSDのケース
PTSDで後遺障害等級の申請をするところから等級認定までの流れを解説します。
①症状固定
治療開始から一定期間が経過すると、症状固定の診断が医師から出ます。
これ以上の治療をつづけても症状が良くなる見込みがない状態のことを症状固定といいます。原則的に事故から約6ヶ月以上経過していることで、後遺障害等級の認定が受けられるようになります。6ヶ月よりも治療期間が短いと後遺障害認定が受けられなくなる可能性が高くなるので、必要に応じて定期的な通院をつづけることがポイントです。
②後遺障害診断書に関する資料の準備
症状固定後は、後遺障害等級認定の申請に向けて「後遺障害診断書」など医学的資料を集めます。
後遺障害の申請方法は2通りあり、事前認定と被害者請求のどちらかの方法を選ぶことができます。
事前認定…被害者は「後遺障害診断書」のみを用意して任意保険会社に提出
被害者請求…被害者は「後遺障害診断書」と「その他の医学資料」を用意して自賠責保険へ提出
被害者請求による申請はご自分で資料を用意する手間がかかりますが、認定に有利に働く資料をあわせて提出することができるのがメリットです。弁護士に依頼すれば、資料取り寄せの作業を一任できるので、忙しい方でも安心です。資料集めの時間がないと不安な方は弁護士に一度ご相談ください。
③損害保険料率算出機構の審査
提出した資料から損害保険料率算出機構が後遺障害等級の認定基準を満たしているのかの審査をおこないます。審査結果をふまえ、自賠責保険会社から等級認定がおこなわれます。
後遺障害の認定の流れ、後遺障害診断書の書き方など、さらに詳しくは関連記事をご覧ください。
<関連記事>後遺障害等級の申請方法
後遺障害等級の認定によって、等級に応じた慰謝料・逸失利益の算定できるようになります。
PTSD「非器質性の精神障害」の後遺障害
後遺障害等級|交通事故によるPTSD
PTSDによる「非器質性の精神障害」の後遺障害を負った場合に認定される可能性がある等級はつぎの通りです。
後遺障害等級
交通事故のPTSD「非器質性の精神障害」
等級 | 内容 |
---|---|
9級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの |
12級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの |
14級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの |
「非器質性の精神障害」の後遺障害ではこのような等級が認定される可能性があります。
後遺障害慰謝料|交通事故によるPTSD
後遺障害慰謝料を算定する時には基準が用いられます。基準は3種類あり、この中からどの基準を使って算定するかで最終的に手に入る金額に大きな差が出ることになります。
▼交通事故の相手方が使う基準
自賠責基準
任意保険基準
▼弁護士の介入で使うことができる基準
弁護士基準
3つの基準のなかで、弁護士基準による算定された慰謝料が最も高額になります。
「非器質性の精神障害」の後遺障害を負った場合の等級に対応する後遺障害慰謝料は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
交通事故のPTSD「非器質性の精神障害」
等級 | 自賠責基準 (万円) |
弁護士基準 (万円) |
---|---|---|
9級 | 245 | 690 |
12級 | 93 | 290 |
14級 | 32 | 110 |
自賠責基準と弁護士基準を見比べると、弁護士基準による慰謝料のほうが高額だとお分かりいただけると思います。弁護士基準でない金額での示談は、本来、得られるはずだった約2~3倍以上もの慰謝料を取り逃すことにつながります。弁護士に依頼することで、弁護士基準の慰謝料が得られる可能性が高まります。
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PTSDの苦しみは外見から分かるような怪我と違って目に見えるものではありません。PTSDの苦しみに加えて人から理解されづらいという点もさらなる負担となり、一人で悩んでしまうことも多いようです。また、交通事故とPTSDの因果関係を証明するのがむずかしいということもあり、適正な示談金が支払われないというケースもみられます。
交通事故による被害を受けたのであれば、十分で適正な慰謝料を請求する権利をもっています。弁護士のサポートを受けながら、適正額の慰謝料が得られる可能性を高めていきましょう。
弁護士なしでの保険会社との示談交渉は、弁護士基準による金額を希望しても聞き入れてもらえることはほぼありません。弁護士基準よりも相当低い金額での提示が予想されます。
一方、弁護士が示談交渉にはいることで弁護士基準による金額の希望が通る可能性が高くなります。
交通事故の被害について弁護士に相談したいという方は、アトム法律事務所の弁護士にご相談ください。
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弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
(第二東京弁護士会)
全国12事務所体制で交通事故被害者の救済に取り組んでいる当事務所の代表弁護士。2008年の創業以来、幅広い間口で電話・LINE・メール相談などに無料で対応し、2024年現在は交通事故被害者の救済を中心に精力的に活動している。フットワークの軽い行動力とタフな精神力が強み。