高次脳機能障害の後遺症|後遺障害等級・慰謝料の基本をおさえましょう
作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
高次脳機能障害の後遺症|後遺障害等級・慰謝料の基本をおさえましょう
交通事故による高次脳機能障害は、後遺障害に該当する可能性があります。
可能性のある後遺障害等級は、別表第1の1級1号、別表第1の2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号、14級9号です。
今回は
後遺障害等級
後遺障害慰謝料と素因減額
この2点をテーマ解説します。
高次脳機能障害による症状や、後遺障害等級認定のポイントは以下の関連記事をお役立てください。
高次脳機能障害|後遺障害等級は何級?
認定されうる後遺障害等級の一覧
認定される可能性がある「後遺障害等級」とその等級の「内容」は以下のとおりです。
後遺障害等級
高次脳機能障害の後遺障害
等級 | 内容 |
---|---|
1級1号* | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号* | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
*別表第1の1級と2級をさす
この等級は「自賠責保険」での認定基準です。
実際に認定する際には「労災保険の基準」にもとづきますので、その内容をみていきましょう。
まずは、「介護を要する」別表第1の1級と2級です。
後遺障害等級
高次脳機能障害の後遺障害
別表第1 1級1号 | |
---|---|
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」で重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの 又は高次脳機能障害による高度の痴ほうや情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの |
|
別表第1 2級1号 | |
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」 以下のいずれかに該当するもの ・重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの ・高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの ・重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの |
3級~14級の内容をみていきましょう。
ちなみに、3級~14級だから介護が不要なわけではありません。
別表第1の「介護を要する」というのは、生命を維持するために介護が必要という意味に近いです。
3級~14級においても、被害者への声掛け・付き添いなどの「介護」が必要とされる事例は多くあります。
後遺障害等級
高次脳機能障害の後遺障害
3級3号 | |
---|---|
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」 ・4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの 又は ・4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの |
|
5級2号 | |
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」 ・4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの 又は ・4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの |
|
7級4号 | |
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」 ・4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの 又は ・4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの |
|
9級10号 | |
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」 ・4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの |
|
12級13号 | |
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」 ・4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの |
|
14級9号 | |
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」 ・MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの |
後遺障害等級の判断基準を徹底解説
後遺障害等級認定の中に記載の「4能力」とは次の4つをさします。
(1)意思疎通能力
(2)問題解決能力
(3)作業負荷に対する持続力・持久力
(4)社会行動能力
4つの能力それぞれについてA~Fの段階で評価を付けます。
判断基準
A:わずかな能力喪失(多少の困難はあるが概ね自力でできる)
B:多少喪失(困難はあるが概ね自力でできる)
C:相当程度喪失(困難はあるが多少の援助があればできる)
D:半分程度喪失(多少の困難はあるがかなりの援助があればできる)
E:大部分喪失(困難が著しく大きい)
F:全部喪失(できない)
次に、
4能力の詳細
A~Eの判断基準
を順にみていきましょう。
(1)意思疎通能力
意思疎通能力には次の4つがあります。
記銘力(新しく体験・学んだことを覚える力)
記憶力
認知力
言語力
A~Eの評価基準は次の通りです。
A:わずかな能力喪失 |
---|
①特に配慮してもらわなくても、職場で他の人と意思疎通をほぼ図ることができる。 ②必要に応じ、こちらから電話をかけることができ、かかってきた電話の内容をほぼ正確に伝えることができる。 |
B:多少喪失 |
①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくり話してもらう必要が時々ある。
②普段の会話はできるが、文法的な間違いをしたり、適切な言葉を使えないことがある。 |
C:相当程度喪失 |
①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためにはたまには繰り返してもらう必要がある。
②かかってきた電話の内容を伝えることはできるが、時々困難を生じる。 |
D:半分程度喪失 |
①職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためには時々繰り返してもらう必要がある。
②かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い。 ③単語を羅列することによって、自分の考え方を伝えることができる。 |
E:大部分喪失 |
①実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示す、などのいろいろな手段と共に話しかければ、短い文や単語くらいは理解できる。
②ごく限られた単語を使ったり、誤りの多い話し方をしながらも、何とか自分の欲求や望みだけは伝えられるが、聞き手が繰り返して尋ねたり、いろいろと推測する必要がある。 |
(2)問題解決能力
問題解決能力の中には、
理解力
判断力
などが含まれます。
A~Eの評価基準は次の通りです。
A:わずかな能力喪失 |
---|
①複雑でない手順であれば、理解して実行できる。
②抽象的でない作業であれば、1人で判断することができ、実行できる。 |
B:多少喪失 |
AとCの中間 |
C:相当程度喪失 |
①手順を理解することに困難を生じることがあり、たまには助言を要する。
②1人で判断することに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする。 |
D:半分程度喪失 |
CとEの中間 |
E:大部分喪失 |
①手順を理解することは著しく困難であり、頻繁な助言がなければ対処できない。
②1人で判断することは著しく困難であり、頻繁な指示がなければ対処できない。 |
(3)作業負荷に対する持久力・持続力
作業負荷に対する持久力・持続力は次の観点で評価されます。
継続して働くことができるか
他者の監督がどの程度必要か
評価の基準は以下の通りです。
A:わずかな能力喪失 |
---|
概ね8時間支障なく働ける。 |
B:多少喪失 |
AとCの中間 |
C:相当程度喪失 |
障害のために予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督がたまには必要であり、それなしには概ね8時間働けない。 |
D:半分程度喪失 |
CとEの中間 |
E:大部分喪失 |
障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない。 |
(4)社会行動能力
社会的行動能力は次の2つがみられます。
協調性の有無
感情や欲求のコントロール低下によって場に適さない行動をしてしまうか
A~Eの評価基準は次の通りです。
A:わずかな能力喪失 |
---|
障害に起因する不適切な行動はほとんど認められない。 |
B:多少喪失 |
AとCの中間 |
C:相当程度喪失 |
障害に起因する不適切な行動がたまには認められる。 |
D:半分程度喪失 |
CとEの中間 |
E:大部分喪失 |
障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる。 |
高次脳機能障害|後遺障害慰謝料はいくら?
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級ごとに目安となる金額が決められています。
しかし目安はどの慰謝料基準によって算定するかで変わります。
弁護士が交渉する時の基準を「弁護士基準」といい、裁判でも使われています。
一方で加害者側は「自賠責基準」やその保険会社の基準「任意保険の基準」を使います。
任意保険の基準は、現在公開されていません。
しかしこれまでの事例から、自賠責保険の基準を少し上回っているけれども、弁護士基準の金額には達していません。
後遺障害等級ごとの慰謝料を比較してみましょう。
後遺障害慰謝料
高次脳機能障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
別表第1 1級1号 |
1600万円 | 2800万円 |
別表第1
2級1号 |
1163万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 245万円 | 690万円 |
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
あらゆる等級において弁護士基準が高い金額です。
同じ後遺障害等級でも、基準の違いはこれほどに慰謝料の金額に影響します。
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高次脳機能障害は非常に重篤な後遺障害と言えます。
被害者の性格まで変わってしまい、これまで被害者が築いてきた社会生活が一変します。
にもかかわらず、加害者側の損害賠償が不十分であることは多いので、決してそのまま示談に応じないようにしてください。示談を結ぶ前に、弁護士に示談内容のチェックを依頼しましょう。また、これから後遺障害等級認定を受ける人には、後遺障害認定サポートも行っています。等級が一つ違うだけで慰謝料は100万円単位で変わってしまいます。弁護士と一緒に、適正な後遺障害獲得を目指しましょう。
弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
(第二東京弁護士会)
全国12事務所体制で交通事故被害者の救済に取り組んでいる当事務所の代表弁護士。2008年の創業以来、幅広い間口で電話・LINE・メール相談などに無料で対応し、2024年現在は交通事故被害者の救済を中心に精力的に活動している。フットワークの軽い行動力とタフな精神力が強み。